Merletteのまわりには刺激的でクリエイティブな女性がたくさん集まっています。そのひとりであるフィラデルフィアを拠点に活動する陶芸家、クレア・レスニック氏にインタビューを行いました。
彼女はPRE FALL 2025の注目アイテムである 「ISLAベルト」の手彫りバックルを制作したアーティストです。
この作品はトシコ・タカエズの有機的なフォルムにインスパイアされたもので、ひとつひとつ丁寧に作り上げられています。粘土がもたらす直感、質感、そして触覚的な喜びを深く感じることができるこのバックルはまるで機能性と美しさを融合させた身に着けられる彫刻作品です。クレア氏のスタジオで彼女を撮影するという特別な体験を通して、クレア氏の魅力に迫ります。
Q.これまでのご自身の背景について少しお話しいただけますか?また、なぜ粘土を使った仕事を選ぶようになったのでしょうか?
A.「粘土との出会いは、最初は趣味から始まりました。新しいことに挑戦する中で、陶芸スタジオでの作業がストレスを解消し、自分自身の忍耐力を育て、成長を促してくれる場だと気づきました。マーケティングの仕事をしていたころ、陶芸の時間が心の癒しになっていたのです。その後、パンデミックをきっかけにスタジオで過ごす時間を増やしました。フリーランスの仕事を少しずつ減らし、陶芸を中心にした生活を送るように。最終的には、自分の幸せを優先する選択として、フルタイムの陶芸家への道を歩む決断をしました。それは、夢にも思わなかった新しい人生の道でした。」
Q.クレア氏の作品は豊かな質感に満ちており、有機的で不完全な形を表現しています。作品におけるデザインやかたちへのアプローチについて、どのように考えていますか?
A.「私の作品におけるデザインやかたちは、制作プロセス自体を祝福するところから生まれます。直感を大切にしながら、それまでに培ってきた技術や粘土の状態、私自身の身体の動き、そして過去の作品への反応を反映させています。指で押さえた模様の数々は、夢見る道やこれまで歩んできた道、そしてそれらがどのように絡み合いかたちを成していくのかを表しています。これらのデザインは常に変化し続ける道に応じた安定感と信頼感を私たちに与えてくれる存在です。」
Q.トシコ・タカエズは、Merlette PRE FALL 2025のインスピレーション源です。彼女の作品がクレア氏にどのような影響を与えたのでしょうか。創作活動において彼女の哲学との共通点を見出しましたか?
A.「トシコ・タカエズの作品は、私にとって偉大なインスピレーション源であり、憧れの対象です。彼女が生み出す作品のリズム感や、素材そのものを称える姿勢には深く心を打たれます。粘土、酸化物、そして火が調和して完成する彼女の作品。そのプロセスでは、釉薬の流れや筆跡に彼女の手仕事の痕跡が見られます。同時に偶然性を楽しみ、それを作品の一部として受け入れる姿勢も感じられるのです。」
Q.今回制作にあたったセラミック製のベルトバックルのデザインの出発点はどこですか?
A.「セラミック製ベルトバックルのデザインは、機能性とデザイン性のバランスを取ることを重視して始まりました。お腹に心地よくフィットするよう、形状とエッジに柔らかさを追求しています。また、トシコの作品に呼応しつつ、Merletteのアイテムと調和するカラーウェイを共同で開発しました。私の作品で用いているピンチング技法を活かしながらも、着用可能なデザインとなるよう工夫を重ねました。実用性とアート性を融合させたバックルは、そのプロセス自体が新たな挑戦であり楽しい試みでした。」
Q.Merletteは職人技、繊細なディテール、そして時代を超えたタイムレスなデザインを重視しています。それらの価値観は、クレア氏の制作プロセスとどのように関わっていますか?
A.「Merletteの価値観である職人技、繊細なディテール、そして時代を超えたデザインは、私の制作プロセスにも深く関わっています。特に、粘土が持つ豊かな歴史とタイムレスなデザインとの調和を探ることに力を注いでいます。現在制作している作品の視覚的な持続性を完全に理解するには、時間が必要だと感じています。また、トレンドを追うような作品を作りたいとも、作る必要性を感じることもありません。流行を追うことはしばしば無駄を生み出しますし、粘土という素材そのものが長い寿命を持つため、慎重に考えるべきだと思っています。」
Q.天然素材と粘土の触覚的な特性は、どのようにクレア氏の創造性をかたち作るのでしょうか?
A.「粘土は、誰もが触れた瞬間にその特性を直感的に理解できる魅力的な素材です。その手触りや柔らかさは、本能的な親しみを呼び起こし自然と創作意欲を刺激します。素材の扱いや焼成のプロセス、釉薬の扱いには時間がかかりますが、粘土をこねたりかたち作ったりする行為そのものには普遍的で自然な喜びがあると感じています。この触覚的な特性こそが、私の創造性の源となっています。」
Q.クレア氏の作品には自由さと即興性が感じられます。直観と構造をどのようにバランスを取っているのでしょうか。
A.「私自身、もともととても構造的な性格なので、日常でもその傾向が自然に表れることがあります。ただ、粘土を扱う作業を通じて、自由な表現を学びそれが作品にも反映されるようになりました。このようなプロセスは、私の人生に新たな柔軟性や創造的なひらめきをもたらしてくれました。その点が作品を通じて表現できるのはとても嬉しく思っています。」
Q.今回のMerletteとのコラボレーションは、クレア氏のクリエイターとしての視点にどのような影響や刺激を与えたのでしょうか?
A.「Merletteが生み出すテクスチャーは、私にとって非常に刺激的な要素でした。デザインをかたち作る際、プリーツやスモッキング、縫い目などを観察しそれらをパターンの参考として活用してきました。その結果、興味深いモチーフがいくつも生まれました。私は普段から、さまざまなメディアや自然界の中にあるパターンを観察し、それを自分の作品に翻訳する過程に喜びを感じています。そのためMerletteのアイテムに込められた繊細なテクスチャーを作品に取り入れることは、とてもエキサイティングな体験でした。特にMerletteの服に見られる正確で緻密なスモッキングは、私がより意図的なパターンを作成するきっかけとなり新たな可能性を広げてくれました。」
Q.クレア氏の日々のワードローブや日常生活でよく手に取るようなアイテムなどをぜひ教えて下さい。
A.「私のワードローブは自然と日々の快適さを重視する傾向があります。快適さとは、天然素材のゆったりとしたシルエットでありつつ、スタイリッシュさを兼ね備えたものだと感じています。特にハンドメイドのアイテムを身に着けることが大好きで、道徳的に共感できるブランドを主に選びます。また、ヴィンテージも好きです。普段の定番スタイルは、デニムと美しいブラウスを組み合わせたコーディネート。最近では、Merletteのアイテムをローテーションに加え、日々の装いに取り入れています。汚れを気にする必要がある日にはヴィンテージのTシャツを愛用することが多いです。」
Photo Credit: Izzi Tognini-Kirby